ハナがいなくなり、バリケンが一つ空っぽになった。ひとまずプロに託したのだから次はオーちゃんが入校予定でいるし、しばらくはボリスだけになる。一頭だけになると寂しくなるけどなんとか他の2頭が戻ってくるまではボリスの世話を一生懸命やろう。
ワンたちの世話をするのは、殆ど私だった。旦那はその頃、もう一頭、オースティンがお世話になった九州のブリーダーさんから、パピーで賞を取った生後11ヶ月の子がいるが、私たちにどうでしょうか?と勧められたため、4頭めを飼いたいなあ、などとのんきなことを言いはじめていた。
冗談ではない。3頭でも充分すぎるほどだ。毎日旦那の会社を手伝い、家事をし、ワンの世話に明け暮れる。これ以上私は動けないと言った。旦那は家事もワンの世話の手伝いもまず殆どしないくせに、飼うイヌを増やしてどうするんだ。タローが亡くなって看病や仕事にも疲れてその頃から、私は発熱が続くようになっていた。37.6度まで熱は上がる。とにかくだるい。病院に行って検査をうけても別に悪いところは出ない。医師が言うには37.8度熱があれば絶対何か、原因があると言う。私は精神的なもの、疲れが原因だろうと思っていた。発熱に慣れてしまえば、もうそういう体調なんだと思えるから「しょうがないや」と思うのだけど、これ以上疲れる気は毛頭なかった。これが限界だから、これ以上、イヌを飼うなら離婚だと思ってくれ、と私は旦那に言った。旦那も「わかった」と答えた。この話はそれで終わりだと思っていた。
ハナが訓練所に行ってしまってから、名古屋の実家の父親の入院検査があり、私が入院期間は一緒に付き添うことになった。母は運転免許を持たないし、バスや地下鉄の便も悪い。タクシーは高い。そんなわけで久しぶりに実家に戻り、ふだんの親不孝を少しでも軽減しようと、私は名古屋に出かけて行った。旦那もめずらしく、愛想よく送り出してくれた。
父の検査結果は悪くなく、(と言ってもそう良くもないのだけど)ひとまず薬で月に一度通院すればいいことになり、少し安堵して私は三重に予定より早く戻ってきた。オースティンとボリスが待っている♪
「おーい、ボーちゃん、オーちゃん、ただいまーーっ♪」、と家に入ってイヌ部屋に行くと、
「ワンワンッ」と私に吠える犬の声。「!?」
知らない犬が、ハナちゃんの入っていたバリケンにいる。
その犬が私に向かって吠えている。・・・誰なんだ?
「あんた、誰やねん・・」低い声でその犬に聞くと、犬は吠えるのをやめ、こっちを見ている。イヌ部屋がシーーーンとなり、他の2頭も私を見ている。ボリスは「ぼく、言えませんっ ぼく、しっているけど言えませんっ」といいたげな顔をしていた。
そうか、あいつはあたしが反対して、これ以上イヌを増やすなら離婚だと言ったのも承知の上で4頭めのゴールデンを家に連れてきたんやな。。そうかそうか、ほんなら離婚するわい。
家で貴重品をまとめていると、旦那から携帯に電話がかかってきた。私は怒りのあまり、声が変わってしまっていたらしい。「はい」と出ると「すみません、間違えました」と旦那の声で電話が切られた。
再び、着信音が鳴る。2度切られ、ようやく奴は私が家に帰ってきていることを知って、慌てて会社から家に帰ってきた。「これにはワケがあんねん!」と必死に言い訳する旦那。どーせ、妻を説得できたら、などと適当なことを言って新しいイヌを連れてきたに決まってる。こいつは私が実家の父の入院検査で不在にする隙に、新しいイヌを連れ込むつもりだったのだ。だからあんなに愛想よく、私を名古屋に送りだしたのだ。「あんたとはもう離婚やっ」と私は怒り狂った。