そのニュースは唐突にもたらされた。発端は、旦那が、亡くなったタローの血縁探しに動き回っていたころ、あちこちに血縁の子を世話してほしいとお願いしたのが始まりだった。どこにお願いしてもあまり本気では受け取ってもらえず(仕方ないことかも知れない)、とうとう私たち夫婦は自力で滋賀のブリーダーさんを通じ、かつ九州のブリーダーさんへと紹介をされて、我が家にオースティンを迎えたのだ。
で、そのニュースとは。タローの血縁となる男の子のゴールデンレトリバーの話なんである。ハナちゃんを頂いた地元の訓練所の校長が愛知県の七宝町のブリーダーさんに話をもっていったらしい。そして生まれたから、我が家のためにゴールデンの子を次の週に受け取ってくる、と言うのだ。。
ほかにどーしたらいいのだ。。確かにお願いしていたこちらとしては、「もう血縁の子が一頭見つかりましたので結構です」とは絶対に言えない。向こうだって「いまさら困る」となりそうだった。私たちも、色んなところにお願いしても、まったく何のフィードバックもないので、もうとっくに期待していなかったのだ。
オースティンは確かに横顔がタローに似ている。生まれた七宝町の子も、タローに似ているだろうか? タロー似なら、と思うと心が動く。地元の訓練所にはハナちゃんとオースティンの出張訓練もお願いしようと考えているところだった。地元だからこそ、親切に探してくれたのだろうか。うちで頂くことを前提に、仔犬に会いに行った。
風変わりな仔犬だった。明るさやおちゃめぶり、嬉しそうな笑顔が無い。ゴールデンレトリバーの仔犬って、雑誌や写真で見るときはいつもはじけるような幸せを顔に出しているのが仔犬だと思っていた。ハナちゃんも初めて会ったときに明るいけど変わり者という印象だったが、今度出会った仔犬は、もっとずっと変だった。びっくりしたことにすごく痩せている。そして訓練所にいる校長家族の子供たちにころがされている。そばに寄ると、じっとして、こっちをそぅっと見ている。顔の表情は、形容しがたいが、「ぼく、生まれてきてよかったんでしょうか?」と言うかのようだった。タローにはまったく似ていなかった。
なんだか、可愛さより、かわいそうさが先にたって、「こいつ、変わってるな」という旦那を押し切って、その日、私は仔犬を連れて帰ってきた。ハナちゃんが仔犬だった頃に使ったケージも道具も全部揃っているのだから、これ以上、訓練所に置いておかず、もう家に連れ帰るほうがこの子にいいのではないか。まだ生後2ヵ月ならあまりころがされているのは骨形成によくないのでは、などと要らぬ心配が重なり、なんだか哀れになってしまったのだ。
こうして、私たち夫婦は、3頭の黄金のイヌを抱えて暮らすことになった。私は新しい男の子に、Borrisという名前をつけてやった。その日、自宅に戻ってオシッコをさせてから、まだまだ小さいボリスを私は胸に乗せて、応接間のソファーで横になった。ついうとうとしてしまい、前を見ると、私の胸でボリスが眠り込んでいた。なんて、可愛いのだろう。ボーちゃん、おまえはあたしががんばって育てていくからね。
追 ちなみにこのボリスはタローの血縁、は血縁なのだ。ボリス君は、タローの祖父にあたるSound Barrier のひ孫なのである。